さくらだより第5集

食中毒
 6月2日朝、テレビのニュースで食中毒により死者が出たことを知り驚く。『O-157』という名前が、一躍有名になる。
 インターネットを使っての情報収集。まさか、こんなに早く活躍するとは思ってないものだから、我が薬局のコンピューターは、あわてふためいている。

 ハンバーグが危ない、次は貝割れ大根。そして、プールでの腰洗い槽の復活。
 消毒液が手に入らない。メディアの存在が、情報の混乱を招いているようにも感じられる。
 厚生大臣のパフォーマンスも、なんだかこっけい。

 結局、対策は手洗いの励行、日光消毒という当たり前のことの再認識。そして、安易に下痢止めや抗生物質を使わないということ……

 おばあちやんの知恵の活躍。



ホームページ開設
 薬局内でパソコン通信を始めたのは、平成7年夏だった。インターネットを始めたのは、平成8年の春。そして、ホームぺージを開設したのは、11月。その担当が私だというのだから、1年後にはなにが起こつているのかわからない。

 ホームページの内容は、地域密着型でということになり、まずはワカヒメ伝説や両宮山古墳から下調べをした。
 今まで自分の住んでいた町なのに、意外に何も知らなかったことに気付く。いつも情報を受け取る側の自分が、発信する側になる。発信するためのエネルギーは、予想以上だ。

 ホームページを作る作業は当初の想像とはかなり違っており、画面にタグという用語を振り分けて、見える画面を作っていく。相手が機械だけに、融通が利かなく、大文字と小文字の違いだけで登録ができず、何時間も頭をひねったりもした(ワカッテシマエバ、カンタンナコト)。
 しかし、数字を入れるだけで、何百もの色を作り出す技には、ビッグリ!
パソコンという機械に振り回された1年。でも、すこし多くの人とお友達になれた。

 この先コミュニケーションの手段は、どのように変わっていくのだろう。 《なかすじ》




 晩秋の日溜まりのなかで、落ち葉拾いをしていると、「ニャー」という耳になじんだ描き声。振り返ると、昨年秋に薬局から旅にでた猫(さくらだより4号に掲載)が、子猫三匹を連れて帰ってきていました。
 さっきの鳴き声は、子猫のほう。でもお母さん猫とそっくり。空の植木鉢のなかに入ったり出たりする子猫を監視する姿は、すっかりお母さんの風格が……

 1年が過ぎたことを感じたひととき。



プロップステーション
 私が初めてこの組織の事を聞いたときの驚きを、どんな言葉で表したら良いのでしょうか?

 「障害者も納税者に!」という考えで、一女性が起こした試みが、輪を広げています。そしてそれを助ける手段が、パソコンという機械。
 ここで知り合いになった、長岡 功治君に以下登場してもらいました。



生きる
 筋ジス(※注) は、私には生活の自然な流れになっているもので、いつも心に大きく影響しているわけではありません。しかし自分が他の人とは違うことは意識すべきだと思います。風邪引きや無理をすればすぐに病気は進行し、元には戻らないからです。
 私には同じ病気の兄がいましたが、八年前に命を奪われ、また沢山の病院の仲間もこの世を去っていきました。そんな時、自分がかかっている病気の怖さが一気に迫ってくると共に、生命の重さを感じます。自分では気づかぬうちに、体は蝕まれてくいるんです。だからこそ、今出来る精一杯を尽くしたい。
 障害者に対する同情はある程度しかたないことなんですが、ただ「かわいそう」という人は、「自分は絶対障害者にならない」と思い込んではいないでしようか?
 日本の福祉にしても、「障害者用」をことさら分けなければならないのはなぜなのでしょう? テーマパークのパビリオンで、長蛇の列を横目で見ながら、「障害者様出入ロ」からす~っと入っていくのは、とても嫌な気分です。入り口を広くしたりして、誰もが入り易くできないのでしょうか?
 今の僕は、歩くときの感触や運動の後の汗の感覚を思い出すことができません。だからすぐに面倒がったり、大したこともないのに不幸だなんていう人を見るともったいないなと感じています。
 不幸というのは、状態、環境でなく、心の問題を言う言葉のはず。

 筋ジスという病気を与えられた僕にしか残せない足跡を残し、「生きていた」と胸を張って言いたい、と考えています。
 最後にこの病気が、私達の世代でなくても、いつかはなくなることを祈ります。

 病歴二十年 現在二十五才。  《長岡》



 ※ 筋ジス……「筋ジストロフィー」の略称です。


後記
 北海道でのトンネルの落盤事故からペルー大使館の人質事件まで、今年も多くの報道を見聞きしました。
 その手段の一つに、今年はインターネットが入りました。これは、自分の好きな時間に、好きな場所の映像や情報が得られ、また自分も情報の発信者になる事が出来る、という点がテレビより勝っているのかもしれません。
 しかし、今年これを使うことを試みて、自分にいかに発信する情報がないのかを、認識しました。
 もっと問題意識をもって、日々を過ごして行きたいと考えました。
 そんな中、ここに原稿を書いていただきました長岡君のような方とお知り合いになれましたことは、とても嬉しいことでした。

 来年は、どんな人と、お友達になっているのでしょうか……

発 行  1997年4月
発行者  赤磐郡山陽町岩田63-1
 さくら薬局
 TEL: 08695-5-5510