さくらだより第15集

千の風になって
私のお墓の前で
 泣かないでください
そこに私はいません
 眠ってなんかいません

 平成十八年暮の紅白歌合戦でこの歌詞を聞いた時、雪解けの川原で亡くなった秋田の少女のことを思い出していた。

 この世の最後の食事がカップめんであったこと、母親に河に突き落とされたこと等を聞くと、居た堪れない気分になった。

 文部科学大臣までもが、いじめられている子ども達へ「自殺をしないで!」と呼びかけた。
飲酒運転による暴走車に、夏休みのカブトムシ採集の三兄弟が命を奪われ、遠足途中の園児の命が奪われた。
 平成十八年を振り返ると、多くの若い命がまるでなだれが起きたかのように、あの世に旅立ってしまった。
若い命が、突然奪われるのは、特に悲しい。

 振り返ってつらい一年であった。
 せめて風の精になって、自由に楽しく吹き渡って欲しいと、願わずにはおれない。


原因不明
 この言葉に、これほど悩まされるとは、想像していなかった。
新車として納車された車が、四ヶ月でバッテリーアガリを起こしてしまった。充電をしても、また三ヶ月するとバッテリーアガリ。それからなんと一年半の間に、合計五回。バッテリーの容量を大きくしても、発電機を交換しても改善しない。

 新車を納車したディーラーさんは、しきりに申し訳ないと言われるが、原因はわからない。
検査センターへ二度も点検に入るが、故障個所を突き止めることが出来ない。
 時は耐震偽装問題が取り沙汰されている頃。だんだんとこの車に乗ることが不安になる。

 安全が保証されていないということが、これほどに不安を誘うものかと、実感する。
メーカー側は「原因不明」のまま。変な電磁波が発生しているのではないかと家の周囲や薬局の周囲を調査に来られるも、そのことがオカルト映画のようでおかしい。
 陸運局は、「整備されたものであるとの届け出があれば、許可をする」との返答。もっともな回答ではあるが、不安が解消したわけではない。

 結局、車を替えてもらうことになった。これで問題解決とは言えないが、ある日突然バッテリーが空になる車を運転するよりは、気分的に楽になった。
 あの車の行く末が、今も気になっている。「原因不明」で片付けられるのかな?


杜仲茶
 昨年夏、市場から杜仲茶が消えた。テレビで、杜仲茶で皮下脂肪が取れると宣伝されたらしい。  
 漢方を勉強している時、杜仲がダイエットに使えるということは、教わらなかった。結構問い合わせもあったが、ダイエットとの関係については答えようがなかった。
秋になり購買熱も冷めた頃、赤磐市主催の「赤磐ふるさと市」の会場で、来場の方々に試飲をしてもらった。秋空の下お祭り気分も手伝って、評判は良かった。しかしダイエットのことは、もう忘れ去られていたような雰囲気であった。

 やがて冬になり、お正月が過ぎて今度は納豆が市場から消えた。
あるテレビ番組でダイエットに効果ありと放映された為。
 しかし、これはテレビ局の捏造であったことが判明。今は捏造について非難されているが、これも時間の問題。もうすぐ忘れ去られるのだろうな。
杜仲や納豆の価値が下がるわけではないが、ちょっと無責任!


無責任
 警察官や公務員の飲酒運転発覚。
上司がマスコミのカメラに向かって頭を下げている。
いじめが原因の自殺。
学校長が謝罪。
官製談合・県庁での裏金発覚。
知事が謝罪。

なんか違うよな?

 シンドラーエレベーターも、パロマもリンナイも社長が謝罪。
昨年暮れ、電話機の具合が良くないので、電話会社に連絡をする。
早速電話会社の方が来られて状態を見てくださった。(素早い対応に感謝!)
そこで光回線にしませんか?というお誘い。(以前から光回線のことは気になっていた)
話を聞いて、光回線へ替えることに同意。
 しかし、実際には一月くらい時間が必要とのこと。そこで一ヶ月先から、その費用は口座から引き落とされることになった。
 ところが二ヶ月が経過をしても、光回線の工事が出来ず、工事予定も立たないという。(何ということだ!)

 これを書いているのは二月末日。二月末には工事予定の連絡の電話が入ることになっていたが、本日まで連絡なし。(もしかして、騙されている?)

 特に平成十八年は、このような無責任に関することでひどく時間を浪費したし、精神的にも疲れた。

 社会全般が幼稚化したように感じられた一年。


なりすまし
 昨年十一月で薬局のホームページ(HP)を立ち上げて十年が過ぎた。
当初は自分達の作ったHPがどれほどの人に見てもらっているのか気になって、アクセスカウンター(何回見てもらったか計測するもの)をつけていた。
 ある時、目立つことのみに囚われてはいけないと考えて、カウンターをはずした。
会ったことも無い人々に対して、何かを発信する難しさを知った。

 割合長い年月HPを運用しており、メールアドレスも公開しているので、ご質問のメールだけではなく、お叱りのメールも頂く。勘違いメールもあった。これらには、見ていただいていることに感謝をしつつ、誠意を持って返事を書いてきた。

 ところが昨今、公開しているメールアドレスを悪用した『なりすまし』のメールが、日々百通近く届く。
多くはアダルトサイト関連や援助交際を思わせるようなもの。メールボックスが一杯になるので、毎日整理しなくてはならない。日本人は何時から羞恥心もなく、こんなことが出来るようになったのだろう?

 イソップの狼少年の話を思い出した。
こんなくだらないメールばかり受け取っていたら、本当に大切なメールが届いても、それを信用できなくなるのかもしれない。

テポドン着弾
 暑い夏の朝であった。北朝鮮のミサイルが日本に向けて飛んできた。一瞬背筋に冷たい空気が流れたのを感じた。

 戦後六十年を経過して、平和であることにボケてきたのか、核武装するべきだという議論が聞こえてくる。武器を持てば、その威力を試してみたくなるのが人間の性である。
核戦争を止めるのが核武装では無いはずであるが、世論があらぬ方向に動き始めたら、それを抑止することは出来るのだろうか?
 フセイン大統領が絞首刑に処せられた。その時の様子が、画像で配信された。残忍だと思った。


イレッサのこと
 今から約五年前のこと。肺がんが治る薬(イレッサ)があると聞いた。当時はまだ日本にはその薬は無く、一部の人は個人輸入をされていたらしい。

 それから厚生省は異例のスピードで承認審査を行い、健康保険適用となった。その薬の開発過程を講演会で聞いて、なんと素晴らしい、「夢の新薬」かと思った。副作用はほとんど考えられないはずであった。

 ところが一年も経過すると、当初想定していなかった副作用で命を落とす人があるようだということが判ってきた。当初は副作用がなくて、肺がんを治療する薬であると考えられていたので、わずか一年余りでの緊急安全性情報(重大な副作用などが判明した時に厚生労働省から発行される)には驚いた。
しばらくすると、欧米人に比べて東洋人に効果があるということが報告された。そしてついに今年二月、日本人を対象とした調査において、他の肺がん治療薬と比較して延命効果は勝っていないことが発表された。

 今、インフルエンザ治療薬「タミフル」についても、重篤な副作用があるのではないか?という危惧が持ち上がっている。

つくづく「薬って難しいなあ」と思う。

「かりんとう」のこと
 有志五人で発刊されていた「かりんとう」という雑誌が、昨年でおしまいになった。
旅行記あり、昔の思い出話あり、ご家族の話題あり、趣味の記事ありで楽しく読ませて頂いていた。

 地域の方の文章なので、余計に親近感が涌いて、自分が経験していないひと時を過ごさせてもらった気分になっていた。

この「かりんとう」のメンバーであるふたりに、登場してもらった。ひとりは毎年挿絵を書いていただいている斉藤明子さんで、今年は昨年一年間に書いてくださった絵の中からいくつかをここに紹介した。

 斉藤さんは絵だけではなく、文章もラジオでのおしゃべりも巧妙でお上手。読んでも聞いてもとても楽しい。そして、お料理もとても上手。塩配ということを教えてもらったのですが、なかなか習得できません・・・。

 そして、もうひとりは初登場の馬場由記恵さん。ドイツで見聞されたパストラルケアについて、ここに書いてくださいました。
お二人とも心の温かい女性です。

パストラルケア
 ドイツで二週間過ごしました。日本のように不要となった廃材が景観を損なうことなく、広大な地は雑草一本無いほどに手入れされ、トラックの排気ガスはクリーン。中小企業は法によって守られて職人の腕と店を保っている街の佇まい。人も物も大切に生き生かされているなーと感じました。

 旅のメンバーはホスピスのナースや医師、学生、保健師、パストラルケアワーカーなど十六名。引率は日本でパストラルケアワーカーを養成なさっているキッペス氏。(ドイツ人であり、上智大学元教授であり、神父)
 キッペス氏の案内でエイズホスピスやウルムの軍の病院、ミュンヘン大学のパストラルケア部、アウグスブルク中央病院、在宅ケア、子供ホスピスなど十余箇所を巡り、そこに心を注いでおられるパストラルケアワーカーのお話を、キッペス氏の通訳で聞きました。

 病院におけるスピリチュアルケアの実際を目にして、人がひとりの人格として大切に扱われるってこういうことかー、と感じ入り、満たされていく思いでした。
 今、日本のごく一部の病院にもパストラルケアワーカーが配属されています。パストラルケアワーカーは、患者をいたずらに励まさず、ケース化せず、一人ひとりに独自の不安や怒りや喜びがあることを知って、患者の言葉に耳を傾ける専門職です。

 死をタブー視して恐れ避ける日本の文化は、ともすれば病者の叫びを行き場の無いものにしがちです。叫びを適切に受け止める人がそばに居るならば、病者は苦しみつつも自ら、絶望の中に希望を見つけ出すでしょう。


 どうぞパソコンで「臨床パストラルケア」を検索して下さい。あなたの関心が、日本の医療界に心のケアの浸透を早める力になるから。ひいてはそれが、私たちも病む時、心の叫びを聞き取ってもらい、諦めることなく、最期まで、自分のままに生きていくことにつながるから。           (馬場由記恵)


春の風  
 昨年四月初めの夜。薬局で仕事をしていると、外の風の音に気が付いた。
「これだけ風が吹いたら、桜はもう終わりだろうな。」と、花吹雪を想像して外に出た。
するとどうだろう!

 結構強い風の中で、花はしっかり枝について、その枝が風になびいているのである。暗い闇の中で薄いピンク色の花が揺れ動く様は本当に美しく、しばらくの間見とれてしまった。いつの間にこんなに大きな樹になったのか・・・。

 一昨年の郵政民営化を問う選挙の後、郵便屋さんは余裕がなさそうに見える。今までより少し丁寧に郵便物を受け取る。
昨年春の診療報酬の改定で、リハビリに制限が加えられた。秋には高齢者の自己負担分が引き上げられた。
明らかに病院への受診を控えておられるのではないか?と感じるケースもある。
税源委譲に伴う地方自治とかで、国からの援助が少なくなるらしい。

 嬉しいニュースが少なくて、元気が出ない。
さらに今年は暖冬であった。二月には道端の菜の花が満開であった。寒さが厳しくない分、春を待つ期待感が薄れる。

 正直な気持ち、このさくらだより十五号を綴るエネルギーが涌いてこないのである。

春のいたずらな風の中で花を散らさずに咲いていた、昨年の桜を思い起こしている。   

後 記  
 WBCで日本のチームを世界一に導いた王監督が素晴らしいことを言っておられた。
『強いチームが勝つのではない。
勝ちたいと強く思ったチームが勝つ。』・・・と。

“強く思うこと”
忘れていたことかもしれない。

 「宮崎をどげんかせんといかん。」というフレーズが、宮崎県民の心を捉えた。
つらい一年ではあった。しかし、まだ諦めるわけにはいかない。

 満開のさくらの下で、「今年こそは、きっと良くしよう」と強く思うことにしよう!
幸せの青い鳥は、すぐそばに居ることに気が付こう!


発行日 二〇〇七年四月
発行者 赤磐市岩田六十三ノ一
    さくら薬局
http://www.sakuraph.jp/
印刷 財団法人矯正協会