さくらだより第3集

 平成6年5月5日、さくら薬局前の旧農協の倉庫が壊された。
ものすごい挨が舞い上がったと思ったら、あっと言う問にくずれおちた。
地元の方のお話では、50年くらい前の建物らしい。
『見晴らしがよくなって良かったね。』と言われる方が大部分だけど、
役割をおえて壊される瞬間の呆気なさが、悲しい。

色即是空 空即是色
 形のあるものに未練を残すな……ということだろうか? 何かが変わると言う前兆のようなものを、感じる。

 お米がない!そんなことは歴史上のことだと、思っていた。ところが、店頭から本当に国産米が消えたのである。あるのはブレンド米もしくはタイ米だけ。主婦の日常会話が、どうしたらブレンド米をおいしく炊けるか? と言うこと。日本酒を入れたり、寒天を入れたり、お米を水にかす時間を長くしたり………。
 天皇ご一家も、ブレンド米を召し上がったという。だけれど、やはり国産米に未練が残る。やみの国産米も販売されているらしい。わが友は、10kgのこしひかりを8,000円で買ったと話した。まるで、歴史の教科書で読んだ戦後のようだ。



歴史は繰り返す
 水がない! 毎日まいにち晴天が続く。瀬戸内に住んで、年間の降雨量が少ないことに慣れていても、こう雨が降らないと、スコールのような夕立をせつに待ち望む。各地で雨乞いの儀式をしているという(困った時の神頼み?)。物言わぬ植物には気の毒でも、庭への散水はとても無理。台所の水もうかつには流せない。
 風呂の残り揚も大切に便う。水田への水の供給はもっと大変であったらしい。水泥棒もあったと聞く。池の底が見える。
 便利さと引換えに、「もったいない!」という言葉を、忘れていた。



のどもと過ぎれば熟さ忘れる
 スーパー『マルナカ』開店。山陽町に大型量販店が開店して近くの道路は交通渋滞だ。
 多勢には翻弄されまい! と意気がってみるが、患者さんのお話を聞くうちに「話のたねだから…」と理由をつけて出かける。広い店内を一巡する間に、幾人もの知ったひとに合う。皆なんとなくウキウキしているように見える。気がつくと、かご一杯買い物をしていた。



消費は美徳
 妻と子供を殺して海に捨てるという事件があった。事件の裏側にひそむ、人間の限りない欲望に気づく。社会的地位・高収入・ブランド品・人形のような美しい奥さん・愛人……殺人を犯したひとの気持ちを、くだらないと一蹴できるだろうか?

 愛犬家殺人事件----犬を愛する人が、なぜ人を殺せるのか? 言葉の意味に悩む。
 そういえば、三百年ほど前にも、そんな政治家がいたっけ。



ひとの命はお金よりも軽い?
 穏やかな正月もおわり、平常の活動に入ろうとする未明、大地震が起こる。なにが何だかわけがわからない。水がない・食べる物がない・寒さをしのぐ衣服もない・けがをしても手当てができない。ここは、ほんとうに日本なのか? いまテレビに映るのは、創られた映像ではないかと錯覚する。それが事実であるとわかるのは、被災された方のことばから。

 20歳代の若いお母さん「友達が20人以上死んでしまった。あんまり多くて、かなしいという気持ちにならん」
 30歳代の家屋の下敷きになった女性「なんにもないんです。なんにも……」
 40歳代の体育館で寝泊まりする男性「なんにも送らんでええ。欲しいのは安心だけや」
 30歳代の子供をもつ女性「……こどもの仲良しのお父さんが亡くなった事を、わが子にどう話たらええのか……“生きてる”って、どういうことなんかなあ」

 神戸の街が焦土と化すのを、テレビの映像で見ている自分の存在が不安定になる。目の前の被災された方には、ただ頭を下げるのみ。一生懸命生きていきましょう、お互いに……



うえを向いて歩こう 涙がこぼれないように

後記
 平成7年8月15日は、終戦50周年の日。
 その年の幕開けに、大震災によって再び多くの命が犠牲になりました。自然の力に対して、これほどの畏怖の念を抱いたことは、近年なかったようにおもいます。
 また桜の季節がやってまいりました。被災地で過ごされた方々は、この陽気をどれほど待ち望まれたことでしょう。
 太陽の恩恵に感謝したい気分です。

 山陽自動車道の建設に携わられた、(株)サクラダ様より、おたよりをいただきました。
 東京都八王子市の多摩森林科学園には、緑の桜----御衣黄(ギョイコウ)があるそうです。

発 行  1995年4月
発行者  赤磐郡山陽町岩田63-1
 さくら薬局
 TEL: 08695-5-5510