旧山陽町の昔話
お婆さんと万金丹
今からおよそ百年あまり前の話である。ある村の名主の家のお婆さんは、いつも威張っていて、そのうえ小言ばかり言うとったので、子供たちから鬼のようにきらわれとった。家の中で遊んでいると、「家の中が汚れるから外で遊べ」と言われるし、庭で遊んでいると「植木が折れたらおえん」と言うし、あれも「おえん」これも「おえん」と言って、子供たらをしかるばっかししとった。それで、「おえん婆さん」という名前がついとった。
そのお婆さん、ある日のこと急に腹痛をおこした。すぐにお医者を呼んで手当をしてもらったがちっとも良くならず、苦しんどった。
ひとりの子が「薬をもっていってあげよう」と言いだした。そしてお婆さんを見舞いに行くことになった。
子供たちは、近所に住んでいた物知りのじいさんに頼んで薬をもらって、おそるおそる、お婆さんの見舞いに行った。
病気で苦しんでいたお婆さんは、子供たちが大ぜい見舞いに来てくれ薬までもってきたというので涙を流して喜んだ。さっそく、その薬を飲んでみた。不思議なことに
今までの痛みはうそのように止んでいた。
それから後は、子供たちがどんなに暴れて遊んでいてもちっとも叱らなくなった。
あとで子供たちが、まんごじいさんにいったいどんな薬をくれたのか聞いたら 、「あの薬はなあ、万金丹いうてのう、ハナクソをもんだ薬じゃあ」と教えてくれたので、子供らは歓声をあけて喜んだ。
「越中富山の反魂丹(はんこんたん)、ハナクソもんで万金丹、それを飲むのが、あんぽんたん」いうて、大きな声を張りあげて歌うたそうな。
山陽町広報誌の「ふるさと探訪」から、許可を得て転載。
両宮山古墳と吉備稚媛(きびのわかひめ)
吉備国は「吉備上道臣田狭」(きびのかみつみちおみたさ)という豪族が支配し、大和朝廷にならぶほど強い勢力をもっていた。
「両宮山古墳」は、その田狭の墓といい伝えられている。吉備稚媛は田狭の妻であった。
雄略天皇の御代、宮殿に仕えていた田狭は、あるとき、友人たちの前で、自分の妻の稚媛ほどの美人はこの世に二人といないだろうと自慢した。これを聞いた雌略天皇は、ひそかに美貌の稚媛を奪おうと計り、田狭を任那(みまな=韓国)の団司(くにのみこともち)として派遣し、その留守に稚媛を宮中に召して女御(みめ)とした。
遠く任那にあって妻稚媛を天皇に奪われたことを知った田狭は、新羅(しらぎ)と結んで天皇にそむいた。天皇は田狭の子弟君(おとぎみ)に父を討つことを命じた。弟君の率いる軍は百済(くだら)へ入ったが新羅へは向かわず、かえって田狭の軍と結ぼうとした。ところが弟君の妻の樟媛(くすひめ)は、夫に謀反(むほん)の心があることを知り、ひそかに弟君を殺して帰国した。
最愛の妻稚媛を天皇に奪われ、また、わが子弟君を殺された田狭の嘆きはどのようであったろうか田狭のその後は日本書記に記されていない。
それから十数年後のことである雄略天皇が崩御されると、稚媛はわが子星川皇子(ほしわのみこ)を天皇の位に立てようとして、田狭の子兄君(えきみ)らと計り、大蔵にたてこもって、皇太子白髪皇子(しらかのみこ)と争ったが、大蔵に火を放たれ焼き殺されてしまった。
焔々(えんえん)と燃えさかる戦火のなかで、稚媛は星川皇子・磐城皇子(いわきのみこ)・兄君ら三人のわが子とともに、はかなく消えた吉備王権を夢見ながら波乱に満ちた生涯を終えたのであった。
山陽町広報誌の「ふるさと探訪」から、許可を得て転載。
日本書紀によると、吉備上道田狭と稚媛の反乱は雄略紀に記載され、
田狭が稚媛の自慢をしたのが雄略7年とされている。
オペラ『ワカヒメ』に行って来ました
(H8.1.18と19に、岡山シンフォニーホールで記念公演が行われました)
とにかく、大勢の観客でした。チケットもすでに完売だったとのことです。
私が一番気に入ったのは、舞台装置でした。とにかくセンスがいい。照明の色、舞台の色。そして役者さんの衣装。とてもすばらしかったです。
ストーリーは、ほとんどが上記の文章通りでした。
物語の中の稚媛(わかひめ)と樟媛(くすひめ)の生き方が対象的な部分が、印象に残りました。稚媛は最後まで夫への愛をつらぬき通すのに対して、樟媛は偽装とはいえ何年も夫婦として過ごした弟君(おとぎみ)に情を移すことなく、最後まで大和朝廷への忠誠をつらぬき通していました。
愛か仕事か、果たしてどちらの生き方が幸せなのだろうか、と思ってしまいました。
もしオペラを見られた方がおられましたら、メール送って下さいね。
さくら薬局(sakuraph@po.harenet.or.jp)
岡山の方言
「おえん」
ちょっと、岡山弁講座です。
「おえん」とは、「だめ」とか「いけない」といった意味の方言です。
例1 「今年は雨がすくねーけー、おえりゃーせん」
例2 「これ買ってー、お母さん」
「おえん、おえん」 ……みたいな感じで、使います。失礼しました。
あなたの町にも、おもしろい方言があったら、教えてくださいね。
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