かかりつけ薬剤師

平成28年4月1日から新設された「かかりつけ薬剤師」について

今では一般的になった「かかりつけ医」に対応する職能として、「かかりつけ薬剤師」という言葉が生まれたようですが・・・・・
かかりつけ薬剤師を決めることの意義について、一緒に考えて見ましょう!

まずは、「かかりつけ医」とは?

頭痛が治らずに不安に思うとき、多くの人はまず顔なじみの「○○医院」の先生の診察を受けようと思いますよね?

会社の健康診断で、コレステロール値が高いと指摘をされたからといって、入院設備のある病院の診察予約をしようとは考えずに、会社の近くや家の近くの「△△クリニック」に行ってみようと思いますよね?

子供が小さいうちは、定期健診やワクチン接種など定期的に小児科医(□□小児科)のお世話になり、その先生のところに熱が出たりお腹の具合が悪かったりしても、受診しますよね?


この○○先生・△△先生・□□先生が、「かかりつけ医」です。
一方、上記のようなケースで近所の薬局に行ってみようとは思いませんよね?

万が一相談を受けても、頭痛の原因は緊急性を要する”くも膜下出血”もあるし、「鎮痛剤で様子をみてみては?」などとは恐ろしくて言えません。
現実に第一類薬のロキソニンS錠を買いに来られた女性の患者さんですが、ロキソニンS錠を頻繁に服用されると話をされるので、近所の脳神経外科への受診を勧めたところ脳動脈瘤がみつかり手術に至りました。

コレステロール高値を指摘されて薬局に来られて「どこの内科を受診したらよいだろうか?」というご質問にはいくつかの選択肢を提示できると思いますが、わざわざ薬局まで聞きに来られるよりご近所の方の評判や職場でのアドバイスで解決することが多いのではないでしょうか?
一方で、これも実際にあったことなのですが「私は(コレステロール値が高くて)××という薬を処方されているが、もっとよい薬はないのか?」というご質問には、薬剤師としてお答えすることは出来ません。

小さい子供の発熱や腹痛は、成人を専門とする内科医でも診察することに躊躇するくらいですから、薬局薬剤師がアドバイスできることはほとんど無いと思います。冷えピタや浣腸を販売するケースが無いわけではありませんが、子供さんを含めて保護者の方からの安心を得ることはほとんどできないと思っています。


それでは「かかりつけ薬剤師」の仕事とは何なのでしょうか?

その仕事の多くが、複数の医療機関を受診して発行される処方箋に書かれている薬剤の相互作用や重複投薬のチェック、もしくは複数の薬剤を使用することから生じる副作用の有無の確認だと考えます。

処方された薬剤を使うかどうか?又は処方された薬剤よりもっと病気を治療するためにふさわしい薬剤があるかどうか?などに対する答えを、薬局薬剤師に求められるケースはよくあるのですが、残念ながらお答えできません。

「かかりつけ薬剤師」というのは職能ですから、この薬剤師に調剤を依頼するとそれに対する費用が発生します。その費用は700円ですが、ご自身が負担されるのはこの金額の1割~3割です。


「かかりつけ薬剤師」になるためには、いくつかの条件が必要で、薬剤師免許を持っていれば誰でもがなれるわけではありません。また「かかりつけ薬剤師」として報酬を得るためには、厚生局に届出をして許可を得なければなりません。

どんな場合に「かかりつけ薬剤師」を決めると良いのでしょうか?

日常的に数種類の薬を服薬をしており、しかもそれらの薬剤がよく変更になる方。
(例) 双極性障害で病状に合わせて薬が変化をする場合・・・躁状態の治療に使われる薬剤は、他の薬剤との相互作用が起こりやすいので注意が必要です。しかも躁状態のコントロールがうまく行かなくなると、後の治療に影響を及ぼしてしまいます。

 
糖尿病治療でコントロール不良でよく薬剤が変更になる方
低血糖症状は命に関わるので、薬剤の相互作用には十分気をつけなければなりません。

薬剤アレルギーや乳糖不耐症のある方
 実際に経験したケースですが、以前に骨粗鬆症の治療薬であるビスホスホネート系の薬剤でスティ-ブンス・ジョンソン症候群という重篤な副作用を経験された女性の方が、腰痛治療の目的で別の病院を受診して以前とは別の名前のビスホスホネート系薬剤を処方され、ご本人は聞いたことない名前だったので安心しておられましたが、かつて重篤な病状になった薬と同じグループの薬であることをお話をして服薬を未然に防いだことがあります。

 乳糖は薬の嵩を増すときに良く使われるので、お薬手帳に記入をしているだけでは、見逃されることがあり、決まった薬剤師に調剤を受けることが安心だと思います。

「かかりつけ薬剤師」でなければ、上記のことが出来ないわけではありません。全ての調剤を行うときに、薬剤の相互作用・アレルギー歴には注意を払いますが、より職能が生かされるケースだと考えます。


「かかりつけ薬剤師」の職能を機能させるには、処方薬だけでなくOTC薬やサプリメントも含めて全ての服薬内容がわかっていなければなりません。
内科の薬はA薬剤師・整形外科の薬はB薬剤師・眼科は病院内で薬を受け取る・そしてサプリメントは大型のドラッグストアで購入して、A薬剤師が「かかりつけ薬剤師」の場合、整形外科の薬も眼科の薬も、ドラッグストアで購入したサプリメントもA薬剤師に伝えなければ、職能を発揮することが出来ません。


私のところでは、処方箋を持ち込まれた患者さんに”かかりつけ薬剤師”が決められていることがわかると、事情を説明してその薬剤師から調剤を受けることを勧めますが、多くの方はそこまで行くのが面倒だと言われます。

しかし薬を使うということは、何がしかのリスクも引き受けるということです。リスクに勝るベネフィットを得られるように、薬物治療の手伝いをすることが、何よりもの薬剤師の職能を生かすことになります。

閑話休題

もうずいぶん前のことですが、患者さん(Iさん)の苦い経験をお話しましょう。
Iさんは循環器の病気を患っておられて、降圧剤やコレステロールを下げる薬や、糖尿病を治療する薬を数種類服薬されていました。
その後Iさんに、肺がんが見つかりました。以前からの薬に、抗がん剤が追加されました。残念ながら癌を治療することが出来ずに、癌性疼痛治療のために麻薬を使うことになりました。
食欲も無く、食事もままなりません。胃薬も処方されていますが、次第に痩せてこられます。

このような体調になって、「糖尿病治療薬やコレステロール治療剤は必要ないのではないか?」とご本人や主治医の先生に何度か尋ねたのですが、結局処方から外れることはありませんでした。
ご本人が主治医の先生に遠慮をして、ご自身で調整をされていたのかもしれません。
しかしよく考えてみると、無駄な薬代の支払いが生じますし、何より処方をされている薬を飲んでなくてそのことを主治医に伝えてなければ、血液検査も意味をなしません。

かかりつけ薬剤師と付き合うということは、少々面倒なことも引き受けなければなりません。  
それゆえに服薬の安全確認と処方箋を持ち込む手間を天秤にかけて、かかりつけ薬剤師を選定していただきたいと願います。